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伴星を共食いする毒蜘蛛「ブラックウィドウパルサー」を発見

 二つの星が互いを回る連星系で、小さくて重い星が周囲に強烈な風を吹き出し、より大きな相棒の星を加熱して蒸発させてしまうことから、共食いする毒蜘蛛に例えて、「ブラックウィドウパルサー」と呼ばれる。これまで発見数はごく少ない珍しい天体を、東京工業大学 谷津陽一助教を中心とする研究グループが多波長の観測から発見した。2012年3月19日、 日本天文学会春季年会に先立って行われた記者会見にてこの成果を公表した。

 ガンマ線天文衛星「フェルミ」によって発見されたこの天体は、パルサー(半径10km、1.4太陽質量の中性子星)の特徴である電波パルスが見られないことから、正体不明の天体2FGL J2339.6-0532(1FGL J2339.7-0531)として分類された。2009年から始まったKong, 谷津らの鹿林1m望遠鏡(台湾)、明野50cm望遠鏡を使った先行研究で、周期的な光度変化から連星系であることを発見した(注1)。また、X線天文衛星「すざく」の追跡観測結果から、半径1.6km, 温度100万度の放射をもつ熱的成分が検出され、中心星は中性子星であることが明らかになった。

 伴星の光度変動の正体を探るために、2011年9月に、光・赤外線天文学大学間連携ネットワークによるキャンペーン観測(注2)として、国内12台および国外3台の中小口径の望遠鏡(図1)を使った長時間にわたる多波長観測を実施した。単色では周期性以外の物理情報を導くことが困難であるが、可視から近赤外に至る広い波長域での連続的な光度曲線を得ることに成功した。図2は伴星の明るさの変動を、観測波長バンドごとに色分けした図であるが、可視バンド(VやR)では、4等級近く変化(光の量としては約40倍)していることが分かる。よって、伴星の表面温度は、3000度から7000度と4.63時間の周期的変化をしていると分かった。また、近赤外バンドでは赤くなるにつれ、光度変化は小さくなっていくことから、伴星と別に赤外線源が存在することが示唆された。

これらの観測から、2FGL J2339.6-0532は、以下のような特徴をもつ天体であると推測される。
1. 主星は高温で高速回転を伴うパルサーで、周囲にプラズマの風をまき散らしている.
2. 周回する伴星は、このプラズマの影響を片面だけに受け、7000度という高温に達している.
3. 7000度に加熱された伴星の一部は蒸発し、ガスとなって連星系の周囲に漂い赤外線源となっている.

このような現象を共食いする毒蜘蛛に例えて、「ブラックウィドウパルサー」と表現している。

 

図1 光・赤外線天文学大学間連携ネットワークによるキャンペーン観測参加施設

 

図2  大学間連携観測によって得られた多波長光度曲線

(注1) Kong et al., 2012, Discovery of an Unidentified Fermi Object as a Black Widow-like Millisecond Pulsar, The Astrophysical Journal Letters, 747, L3.

(注2) 当初、光・赤外線天文学大学間連携ネットワークによるキャンペーン観測は、2011年9月29日から予定されていたが、国内は天候不順が予想されていたために、急遽予定を2日間繰り上げて実施した。このような天候リスクは、地上観測では避けることのできない問題であるが、観測拠点が分散していることと中小口径の優れた機動性により、このリスクを回避することができた。


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