本事業は、大学共同利用機関である国立天文台と、北海道大学、埼玉大学、東京大学、東京工業大学、名古屋大学、京都大学、兵庫県立大学、広島大学、および鹿児島大学の9大学が連携し、平成29年度から5年間の予定で行われています。
国立天文台と本事業に参加・協力する各大学は、国内外において運用する光赤外線望遠鏡と観測装置を連携して用いることによって、重力波およびニュートリノ源の電磁波対応現象を探査・検出し、未知の突発的変動現象を解明することを目的とした共同研究を行います。具体的には、最先端の重力波望遠鏡による重力波検出、あるいは天体ニュートリノ検出を受けて、その即時追観測を実施します。重力波・ニュートリノ源の電磁波対応天体が同定された際には、多機能性をいかした連携観測を実施することにより、その現象の物理的な解明に迫ります。重力波・ニュートリノに付随する天文現象は時々刻々と明るさや色などが変化すると期待されています。連続的なモニター観測が必要となるので、複数ある中小口径望遠鏡の連携観測が威力を発揮します。こうして、電磁波、重力波、ニュートリノという複数の最先端の観測メディアによる観測結果を利用するマルチメッセンジャー天文学の研究・教育プログラム拠点を創設することにより大学の研究力強化を図ります。
目的・目標
本事業では、日本の大学が国内外に持つ全地球的な多地点・多機能な光学・赤外線観測ネットワークを活用し、重力波源の電磁波対応現象の検出等を目標とした、大型望遠鏡だけでは実施困難な最先端の共同研究を行い、今までの電磁波だけによる天文学に加えて、重力波、さらにニュートリノによる観測から成る新しい研究分野としてのマルチメッセンジャー天文学の拠点を創出することを目的とします。
必要性・緊急性
2015年9月14日に米国のAdvanced LIGOによって人類史上初の重力波直接検出の偉業が達成されたことは記憶に新しいことと思います。ヨーロッパでもadvanced VIRGOが2017年夏から稼動しました。今後、日本・米国・欧州の3地域で重力波の検出が行なわれるようになれば200Mpc(6億光年)以内の中性子星合体による重力波の検出が可能となり、ブラックホール連星の合体の場合にはさらに遠方からの重力波が検出可能と期待されます。
重力波は人類にまったく新しい宇宙を見る目を与えましたが、重力波源を光や赤外線等の電磁波によって観測可能な現象として同定することは、重力波現象をより完全に理解するために必須の課題として世界中で注目されており、この世界的な潮流に一刻も早く参加することは、喫緊の課題です。検出される重力波源の数は、不定性が大きいものの年間10個程度が期待され、単一の望遠鏡で追跡することは困難で観測ネットワーク構築が必須となります。しかも、日本と欧米の重力波天文台の同時稼動ができると、重力波源の位置精度も上がって10平方度程度となり、本連携事業による観測ネットワークで短時間に探査可能となります。このようなタイミングで、重力波、ニュートリノ、電磁波(光赤外線)の三者を組み合わせたマルチメッセンジャー天文学を推進することは、天文学・物理学に新たな地平を切り拓くと期待されます。したがって、本連携事業によって独自の観測ネットワークを構築してマルチメッセンジャー天文学を推進する重要性が高いです。
独創性・新規性等
本連携事業に参加している大学は、ガンマ線バースト・超新星等の突発天体の即時フォローアップ観測やモニター観測の豊富な経験を有しており、連携ネットワークを構築して多地点・多モード観測によってしか達成できない研究成果をあげてきました。この連携ネットワークによって、広視野の可視光カメラ(東京大学・木曽観測所のTomo-e Gozen)が完成しました。さらに2019年には口径3.8メートルのせいめい望遠鏡(京都大学・岡山天文台)が本格的に科学観測運用を開始し、併せて国立天文台が主導する共同利用観測も始まりました。また、変光天体の自動検出ソフトの整備も進んでいます。その結果、重力波源の候補天体探査を、このような広視野カメラによる広域撮像や、重力波源の存在する可能性のある多数の銀河を多くの中小口径望遠鏡で分担して撮像探査するなどの連携によって早期に実施することが可能な状態になっています。こうした点から本研究テーマを追求する上で世界的に有利な状況になっています。
また候補天体が見つかれば、世界に分散した本連携の望遠鏡で、光赤外線での連続モニターが可能であり、このような特色は世界的に見ても稀有です。中性子星などによる合体現象では有意な偏光もある可能性が高く、本連携の特長の一つである偏光観測による研究の進展が見込まれます。更に、候補天体の光赤外線分光観測が可能な大きな口径の望遠鏡も整備されつつあり、本研究を実施するには非常に時宜を得ています。広視野撮像、光赤外線での同時観測、24時間連続観測、フォローアップ分光・偏光観測が連携して行なえる体制は世界的にみても例が無く、世界に対する優位性は非常に高いです。まさにこの時機を逃すことなく構築された連携観測ネットワークを活かして、科学のフロンティアを開拓する事業を展開すべきです。
これまでの取組実績
2011年度発足の「大学間連携による光学・赤外線天文学研究教育拠点のネットワーク構築」事業は、望遠鏡を国内外に所有する7つの日本の大学と国立天文台との連携でスタートしました。その目的は、各大学・天文台が持つ中小口径望遠鏡を有機的に連携して使用することによって、これまで未開拓であった時間軸パラメータの天文学を開拓していくこと、多機能を活かしたユニークなサイエンスを展開することによって、最先端の天文学研究・教育を促進することでした。とりわけ、大学が所有する世界各地に位置する中小口径望遠鏡による突発的天体現象の観測、24時間連続観測によるモニター観測、またこれらの観測を近赤外線や偏光で行なえることが目玉となっていました。
連携による観測成果は、ガンマ線バーストの多数のフォローアップ撮像測光観測、超新星の撮像・測光観測と分光観測、活動銀河核の光度変動のモニター、激変星の変動モニター、太陽系天体の撮像・分光観測等多岐にわたります。例えば、超新星の研究では、近赤外線を含む測光観測・可視分光観測を連続的に行うことによって、これまで知られていなかった新しいタイプの超新星の性質を明らかにするといった成果を得ました。また、近年は、広視野の超短時間撮像可能な装置の登場で新たな超新星探査や重力波天体の可視対応天体探索に活躍をしています。さらに、電波天文学分野の連携事業JVN(日本VLBIネットワーク), EAVN(東アジアVLBIネットワーク)との同時観測を実施することでより広範な波長域での観測を行っています。
事業達成による波及効果等
重力波源として有力である中性子星連星、中性子星・ブラックホール連星、ブラックホール連星の合体といった天体現象は、その性質に未知な部分が多く、思いもよらぬ現象が起こっている可能性があります。これからの宇宙物理学の研究の宝庫になると期待されています。また、電波天文学やX線天文学の発展の歴史がそうであったように、可視近赤外天文学との連携によって重力波天文学、あるいはニュートリノ天文学という広大な分野が拓けてくるものと期待されます。
宇宙の爆発現象を解明することは多くの人の興味・関心をひくことで、その成果は人類共通の知的財産となり、世界観及び地球観といった人類の精神的バックボーン形成に重要な影響を与える可能性を有しています。
連携研究機関
本事業は、自然科学研究機構・国立天文台と、北海道大学、埼玉大学、東京大学、東京工業大学、名古屋大学、京都大学、兵庫県立大学、広島大学、鹿児島大学が互いに連携して行う事業です。参加望遠鏡一覧はこちらです。
2011年度から2016年度まで行われた「大学間連携による光学・赤外線天文学研究教育拠点のネットワーク構築」の第一期の事業概要はこちらです。