事業概要(第一期)

 北海道大学、東京大学、東京工業大学、名古屋大学、京都大学、広島大学、鹿児島大学の7大学と大学共同利用機関である自然科学研究機構・国立天文台が連携し、日本の大学が国内外に持つ中小口径の望遠鏡を有機的に結びつけて、突発天体等の即時および連続観測により、その物理現象の解明をメインテーマとした最先端共同研究の推進と大学における天文学教育を促進するための事業を平成 23年度から6年間共同で実施いたします。平成24年度より埼玉大学、兵庫県立大学を加え観測体制をより強化しました。

 本事業は、突発天体のフォローアップ観測および変光天体の連続モニター観測等、天文学の比較的未開拓な次元である「時間軸」に焦点を当てた斬新な研究を行います。”すばる望遠鏡”や”アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計 (ALMA) “のような大望遠鏡だけでは出来ない種類の最先端研究を行うことにより大学での教育と研究を促進し、広い視野と知識を備えた研究者を育成することを目指しています。また、大学の垣根を越えて広く研究者の人的交流を奨励することが期待されます。

事業内容

  • 背景と今までの状況
  • 目的・目標
  • 重要性
  • 独創性・新規制等
  • 共同研究の分野
  • 連携研究機関
  • 実施体制

背景と今までの状況

 現在までに、東京工業大学では国立天文台岡山天体物理観測所および山梨 (明野) にそれぞれ口径 0.5m 望遠鏡を設置し、ガンマ線バーストの可視残光観測を行っていました。広島大学では口径 1.5m のかなた望遠鏡に可視偏光観測装置や高速分光装置を取り付け、突発天体に対応した観測を行っていました。鹿児島大学は国内に口径 1m の望遠鏡を持ち、また名古屋大学は南アフリカに口径 1.4m の IRSF 望遠鏡を持ち、それぞれ赤外線観測を行っていました。東京大学は 2009 年にチリに口径 1m の mini TAO 望遠鏡を設置し赤外線観測等を開始したところです。そして、京都大学は国立天文台と協力して、国立天文台岡山天体物理観測所の隣接地に突発天体に対応できる口径 3.8m 新技術望遠鏡を製作中です。 これらの経験から、日本国内での観測だけでは、これ以上の詳細な観測研究を行うことは困難であり、全地球的な観測ネットワークを使った即応観測と連続追観測の必要が指摘されていました。また、国内のその他の大学での独自な観測では研究に限界があり、重複した観測を無くして、国立天文台と大学のもつ地上観測設備を統合し、多モード・多波長にわたる相補的観測研究を行う計画が必要となりました。

目的・目標

 本事業は、地上と衛星からのサーベイ観測と連携した全地球的な光・赤外線での多地点・多機能な観測ネットワークを国立天文台、北海道大学、東京大学、東京工業大学、名古屋大学、京都大学、広島大学、および鹿児島大学が、それぞれの持つ中小望遠鏡の特徴的な機能を使って構築し、すばる望遠鏡や ALMA などの大型望遠鏡との連携観測などによるシーナジー効果を狙った相補的で斬新な研究を推進することが目的です。 これら大学の望遠鏡群を使った共同観測研究は、観側装置開発や実際の観測研究を通して世界に通用する高い技術に触れる教育の点からも貴重であり、高度な研究設備と国際的な研究環境を活かした研究を通じて、広い視野と知識を備えた研究者を育成することを目指します。また、大学の垣根を越えて広く研究者の人的交流を促進することが期待されます。

重要性

 観測天文学の分野では、衛星および地上からの大規模サーベイ観測データを利用することにより、今まで非常に困難であったガンマ線バーストの起源天体の解明や、超新星、ブラックホールX線新星、新星、矮新星等の突発天体の詳細な研究が可能となりつつあします。しかし突発天体の発生時期・発生場所はまったく予測不可能なため、貴重な早期観測データ取得のためには全地球的な地上観測網を敷き、サーベイ情報を用いてすばやく地上からの可視光・近赤外線でのフォローアップ観測を実施することが必要です。LSST (Large Synoptic Survey Telescope) 大型シノプティック・サーベイ望遠鏡などの大規模サーベイ計画が開始されようとするこの時期に国内・国外の望遠鏡を結ぶネットワークを早急に立ち上げ、これらの分野の発展にいち早く貢献するためにも本事業は非常に重要です。  また本事業により、各大学の学生が最先端の研究・開発に直接参加することができます。そして、大学共同利用機関である国立天文台と大学間の人的交流を促進し、研究の活性化を図ることで、それぞれの機関が得意とする分野の教育研究指導を相互に行うことができるため、学生の教育の機会や幅が広がり、その教育効果は大きいと考えます。

独創性・新規制等

スイフト衛星によって 2009 年 4 月 23 日 (日本時間 16 時 55 分) にしし座に検出されたガンマ線バースト GRB090423 は、国立天文台岡山天体物理観測所 188cm 望遠鏡で赤外線観測装置 ISLE (アイル) によって残光の観測が行われました。このガンマ線バーストは、131 億光年 (赤方偏移 8.2) の天体であり、発見当時人類史上最遠の観測された天体であることが判明しました。この史上最遠の天体の観測の成功は、増光発見時からの即座の測光観測が重要であることを如実に示していると共に、中小望遠鏡を使った観測による最先端研究の好例です。 わが国では、東京工業大学、広島大学、鹿児島大学、名古屋大学、東京大学が国内外に中小口径の望遠鏡を設置して、突発的な現象に対応してそれぞれで観測する体制がここ数年で急速に整いつつあります。中小望遠鏡でも可能な 天文学の比較的未開拓な次元である「時間軸」に焦点を当て、これら日本国内と世界中に展開する各大学の望遠鏡群を連携して活用する独創的な観測網を充実させることにより突発天体の即時観測能力が確実に強化されます。

共同研究の分野

本事業の観測データを利用する国内の研究者は、主に1) ガンマ線バースト、2) 超新星、3) X線新星、4) 激変星 (新星、矮新星など) の4つの研究分野にわたり、約 100 人の規模を想定しています。さらに同数近い学生が本事業により最先端の観測研究を利用した教育プログラムによる教育を受けることができると期待されます。 例えば、突発的に超高エネルギーのガンマ線を放射するガンマ線バーストの成因は未だ完全には解明されていません。ガンマ線バーストの起源としては、大質量星がその一生の最後に引き起こす極超新星爆発によるものとの説明が有力です。極超新星爆発は、大質量星の中心に形成された巨大な鉄のコアが重力崩壊を起こして一瞬にしてブラックホールを形成することによって始まります。このとき、X線から可視光、赤外線、電波にわたる「残光」が放出されると考えられています。 このガンマ線バーストの可視光の残光は、ガンマ線バーストの周囲に広がる星間物質の化学組成や物理状態に関する重要なデータを提供すると考えられます。さらにX 線やガンマ線との同時観測によって、バーストの放射機構や爆発機構に迫ることができます。ガンマ線バースト発生時に原始中性子星が形成されブラックホールへと崩壊するときの高密度核物質の状態方程式や一般相対論の検証など、極限状況の物理法則の研究に重要な情報を得ることが出来ます。

連携研究機関

本事業は、自然科学研究機構・国立天文台と、北海道大学、埼玉大学、東京大学、東京工業大学、名古屋大学、京都大学、兵庫県立大学、広島大学、鹿児島大学が互いに連携して行う事業です。参加望遠鏡一覧はこちらです。

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